■20200404&0411/“ネットライブ元年”の幕開けとなった2つのライブを堪能!

2022年6月7日ライブレポート

2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大によりフラメンコ業界は大きな打撃を受けた。3月辺りからライブやクラスの中止が相次ぎ、4月7日に出された緊急事態宣言によって5月末まで全てのライブが中止となった。

つらい状況ではあったが、そんな中で芽吹いたものもある。ネットを通じた「ライブ配信」だ。

実は僕は、ライブ配信について懐疑的だった。フラメンコの迫力や臨場感は生でしか味わえないものだからだ。とはいえ全くライブのない状況にはうんざりだったし、危機感も抱いていた。

そんなところに飛び込んできたのが、三枝雄輔さんが4月4日に予定しているソロライブを無観客のライブ配信に切り替えるという情報だ。これはもう観るしかない! すぐさまメールで申し込み、初のライブ配信の視聴にチャレンジしてみました。

■4月4日 カサ・アルティスタより 「三枝雄輔ソロライブ REINICIANDO~再起動~」

僕はネット動画自体あまり観ないのだが、今回体験してみていろいろな部分で新鮮だった。例えばYou Tubeの画面の横にあるコメント欄。始まる前から視聴者が書き込んでいて、知り合いの名前を見つけると「お、来てるんだ」なんて気分も高まっていく。

やがて開演となり、まずは歌とパルマだけで雄輔さんが踊る。音質は思ったほど悪くない。パコの歌、雄輔さんの足音、パルマもしっかり聞こえる。画質が今ひとつなのは仕方がないが、セピア系の色に調整されて雰囲気はよく出ていた。

MCとギターソロの後には、雄輔さんがタブレットを持ち出しYou Tubeについたコメントを読み上げる場面もあった。通常のライブにはない斬新なコミュニケーションだ。これはアリ!

そしてソレアで画面に釘付けになった。パコの歌をじっくり受ける雄輔さんの体に、熱いものが溜まっていくのがわかる。画質が悪くとも、激しい動作でブレようとも、伝わるものはしっかり伝わってくるのだ。ライブ配信に懐疑的だった僕にとって、目からウロコの体験だった。


映像からでも充分に空気が感じられたソレア。

ライブの中で雄輔さんはこう語った。「今、ウイルスで世界がこんな事になっていますが、元気が届けられるように、皆に楽しんでもらいたい。それがアーティストの役割だと思っています」

その元気、その想いは、荒い映像からも確かに伝わってきた。それはネット回線に乗って、日本の各地に届けられたことだろう。

終演後、関係者にお話を聞いたところ、スタッフの方からは「画像と音響のクオリティは最低レベル。生のライブに近づけられるよう改善していきます」との反省点も。雄輔さんは「お客様が普段観られない高さから観られるような工夫をしました。視聴者の方1人1人のために踊っている事を伝えたかったのでカメラ目線を意識しました」と、ライブ配信ならではの見せ方も実践したという。直すべきところは直し、可能性は更に広げていく。今後どう発展していくのか、この時にはもう次の4月11日のライブ配信が楽しみになっていた。


ラストの笑顔あふれるアレグリアス。元気をたくさんもらいました!

■4月11日スタジオマジョールより 「FAMILIA RAMAS」

この日のライブ配信は鈴木眞澄さんのスタジオ、スタジオマジョールから行われた。出演者も豪華で、鈴木眞澄さん、三枝雄輔さん、三枝麻衣さんのご家族勢揃いとあって視聴者サイドも大賑わい。300人近い観衆の中でライブは始まった。

ライブは雄輔さんの重厚なソレア、麻衣さんの激しいタラントへと移ってゆく。麻衣さんの踊りではカメラ目線やカメラの前でのブエルタなど、ライブ配信を意識した動作も見られた。

麻衣さんは無観客ライブは初めてとのことだったが、後で「始まってみるとプライベートフィエスタのような気持ちになり、出演者が気持ちやフラメンコを共有できれば、画面を通しても伝わるものだと思いました」と語ってくれた。


前回同様、空気が感じられた雄輔さんのソレア。


麻衣さんのタラントの時に、最高視聴者数319人を確認。

ラストは眞澄さんの優雅なアレグリアスで、視聴者数319人を数えたライブは無事終了。眞澄さんは終演後、ライブ配信についてこう語った。「大きな可能性を感じたのは、介護中、子育て中、地方の方などライブに出かけるのが難しい状況の方々にとても喜ばれた事です。自粛が解かれた後も生のライブと併用して配信したら、より多くの人たちに楽しんでいただけると思います」


気持ちが洗われるような、眞澄さんのアレグリアス。

フラメンコのライブ配信はまだ始まったばかりだが、今回拝見した2つのライブは眞澄さんが語ったように可能性に満ちていた。タブレットを使たコミュニケーションや、カメラを意識した踊り方など演出の部分でも様々な工夫があった。近頃「ネットライブ元年」との言葉を聞くが、その幕開けにふさわしいライブと言えるだろう。

雄輔さんはフラメンコのネット配信にますます力を入れ、ポータルサイト「FLAMENCOLIVE JAPAN」を立ち上げて、ライブやスペイン人アーティストのクルシージョなどの配信も始めている。そしてこの号が発売されるころには、きっとタブラオのライブも再開していることだろう。ネットとリアルなタブラオのライブがどう融合していくのか、その融合が日本のフラメンコ界をどう変えていくのか、注目していきたい。


You Tubeのコメント欄からリクエストして、記念写真も取らせていただきました。お疲れさまでした!