世界的“ダンサオーラ”ロシオ・モリーナ、その生き様をとらえた映画『衝動~』を拝見!

2020年3月1日S.Hori's Topics, フラメンコ

少々間があいてしまって恐縮なのだが、去る2月12日、ご招待に預かって映画の試写会に行かせていただいた。

タイトルは『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』。26歳の若さでスペイン芸術界最高の栄誉「スペイン国家舞踊賞」を受賞した、ロシオ・モリーナの創作現場を追ったドキュメンタリーだ。

3歳の時からフラメンコを始めた彼女は、その身に伝統的なフラメンコを宿している。その上でさまざまなダンスを融合させ、アイディアを盛り込み、革新的な舞台を生み出し続けてきた。現在は“ダンサオーラ(ダンサーとバイラオーラを組合わせた造語)”として、世界規模で活躍している。

非常に崇高な匂いのする映画で、興味津々で観に行った。が、上映が始まって最初に目を奪われたのは、フラメンコとは別のポイントだった。

「私は猫です」

冒頭で映し出されたロシオが着たシャツに、日本語でそう書かれていたのだ。シャツには招き猫の絵柄までプリントされていた。

個人的な趣味ですみません(笑)。しかしそんなシーンのおかげで、肩の力を抜いて、ロシオというアーティストに親近感を持って映画を観ることができた。

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映画では、各地で公演を繰り返しながら、エッフェル塔を臨むパリのシャイヨー国立舞踊劇場の公演に向けて作品を作り込むロシオの姿を克明にとらえていく。各公演の様子や、彼女に対する周囲の声などを盛り込みながら、フィルムは進む。制作は2017年、今から少し前のロシオを撮ったものとなる。

まず惹かれるのは、やはり各地の公演のシーンだ。偉大な歌い手フェルナンド・デ・ラ・モレーナとの舞台では、ロシオが爆発的な熱量を持って踊る様子が映し出される。火の玉が舞台にあるのではないかと思うほどだ。

また伝説のフラメンコダンサー、ラ・チャナが共演した舞台では思わず顔がほころびそうになるほど、ライブ会場に愛と優しさが溢れていた。

ライブ前後の出演者たちとの会話も臨場感があり、皆が熱を持っているので、観ていてとても心地よいものがあった。

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そんな印象的な公演のシーンに折り重なるようにして、ロシオが創作のために試行錯誤を繰り返す場面が挿入される。この映画の肝と言ってもいいだろう。

仲間とのセッションなどもあるが、強く印象に残ったのは、ポスターにも使われている白い衣装を着て創作に打ち込むシーンだ。

ライブの時に見せる姿とは打って変わって、その時の彼女は静謐で、しかし鋭利な刃物のような鋭さを感じる。映画の中で、彼女は創作に関してこう語っている。
「私は常にリスクや限界に近づこうとしている」
覚悟、決意、挑戦、そこから生じる集中力。自ら道を切り開くロシオの心と身体の中は、恐らくそういったもので満たされているのだろう。そんな気がしてならなかった。

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時に熱く、時に愛に満ちた伝統的なフラメンコを迸らせるロシオと、その枠にとらわれず新たな世界を作り出そうとするロシオ。両者の対比がこのドキュメンタリーに深みを与え、同時にそれらを1人のアーティストが作り出す姿を見た時、人として、また創作に携わる者として、感服せずにはいられなかった。

ドキュメンタリーが進行する過程で、彼女の創作への姿勢や、創作へと突き動かすモチベーションなども語られる。ネタバレは避けたいので割愛するけれども、ロシオ・モリーナという偉大なアーティストの生き様がこのドキュメンタリーに詰め込まれていることは確かだ。

映画のラストは、シャイヨー国立舞踊劇場での舞台のシーンで締めくくられる。そこで彼女は、ミステリアスな空気を放ちながら舞い、同時に眩い光を放っていた。

光と闇、昨日と今日が混在する、暁の景色のように。

今年3月7日に予定されていたロシオ・モリーナ舞踊団の来日公演は残念ながら中止となってしまったが、公演に行く予定だった方や興味があった方、またフラメンコを深く愛する方やジャンルを問わず創作活動に携わる方に、この映画をオススメしたい。

またシャイヨー国立舞踊劇場で上演された『カイーダ・デル・シエロ』のライブ映像の上映が急遽決定した。タイトルは『ロシオ・モリーナLIVE―カイーダ・デル・シエロ』で、今回紹介した『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』と合わせて観るのも面白そうだ。詳細は下の公式サイトから御覧くださいませ!

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一日も早く、ロシオに会える日が来ますように!
作品情報

●タイトル
『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』

●2020年3月13日(金)、東劇、東京都写真美術館ホール(※上映開始日調整中)ほか全国ロードショー
※コロナウイルスの影響により、上映スケジュールが変更となる場合があります。詳細は公式サイトでご確認ください。

監督・脚本:エミリオ・ベルモンテ
撮影:ドリアン・ブラン&トーマ・ブレモンド
録音:シャビエル・アルヴァレズ
編集:マチュー・ランブリオン
出演:ロシオ・モリーナ、ホセ・アンヘル・カルモナ、エドアルド・トラシエラオルーコ、パブロ・マルティン・ジョーンズ、ラ・チャナ
2017年/フランス、スペイン/85分 /カラー/スペイン語/原題:Impulso 
公式サイト:impulso-film.com
配給:トレノバ、ノーム