竜王殿の中には、畳の上にコンパネを敷き、椅子を並べ、即席のステージが作られていた。観客の熱気を扇風機がかき回す中で、リサイタルは始まった。
まず最初に思ったのは、「音」が違う。森川拓哉君のバイオリンも、山崎まさしさんと今田央さんのギターの音も、普段タブラオで聞くよりも優しい色気と深みに満ちていた。音響スタッフの手腕なのか、あるいは、木と畳に囲まれた竜王殿だからなのか。粒が揃った音が心地よく心に響いてくる。
そこに大らかで、優しさと悲しみを深く歌い上げるパコの歌、切なさを訴求して止まない森薫里さんの歌が重なるのだ。
充実した音と歌が幾重にも空気を染め、移ろい行く。普段荘厳であろう竜王殿は、さまざまな情景が交錯する叙情的な空間へと変わっていた。
そんな中で恵さんは――
なんとも透き通った空気を帯び、凛として踊っていた。
力強いファルーカ。
華やかな衣装のセラーナ。
道に迷ったかのようなタラント。
重苦しくも逞しいペテネラ。
踊りですべてを表現するのではなく、音とともに世界を描いていく。
間に挟まるムシコスの演奏、カンテソロも素晴らしく、「ベネズエラのワルツ」の今田さんと森川くんのユニゾンは鳥肌が立つほど美しかった。
相当音を意識していたことは、1曲めのファルーカにつけられた「空間に満ちる音たち」とのタイトルからもわかる。
そしてそれが、素晴らしい世界を我々の前に展開してくれた。
強く、逞しく。
華やかで、でも重く。
何かにピッタリと寄り添い、そして流れてゆく。
恵さんと出会ってまだ1年にも満たないが、彼女が過ごした40年もの月日を舞台の上に見たような気がした。

当日のフライヤーより。ラストの曲「アルフォンシーナと海」の歌詞。