■20210407/踊り手さんに超人気! コロナ禍で生まれた新方式のペーニャに行ってみた

2022年6月14日ライブレポート

コロナ禍が…という書き出しを何度このページで使ったことだろう。新型コロナウイルスが世界を脅かし続けて1年以上経った今も、終息は見えない。しかしそんな中だからこそ新しい試みがなされ、様々なものが定着し発展していることも事実だ。ライブ配信は当たり前となったし、オンラインレッスンを開講する人も増えている。

バイラオーラの青木千鶴子さんが恵比寿のタブラオ、サラ・アンダルーサで始めた「Peña rosa roja」も、コロナ禍で生まれた新しい試みだ。「あくまで私個人の企画」として大々的に周知していないが、当初から大いに盛り上がり、定着どころか他店に飛び火する人気企画となった。

青木千鶴子さん手書きの当日のプログラム。出演者は、彼女がフラメンコ人生の中で知り合った友人たちだ。

多くの踊り手が参加したがる「Peña rosa roja」のシステムとメリット

コロナ前のサラはスペイン人アーティストを招聘し、彼らが出演するライブをメイン企画としていた。ペーニャもあり、スペイン人が来ている時は、参加費を払えば彼らの演奏で踊ることもできた。しかしコロナでスペイン人が来られなくなり、経営が厳しくなってきた。そんな状況で「私も協力したい!」と青木さんが立ち上げたのが「Peña rosa roja」だった。

舞台に上がる踊り手は2,000円の参加費を払う。これはお店が舞台を解放する料金に当てられる。またプロの日本人アーティストに伴奏を依頼するため、彼らの出演料として3,500円(アーティストが2人の場合の金額)を支払う。計5,500円で舞台に立ててプロの伴奏で踊れる、という仕組みだ。

ここでお店とアーティストには収益が発生。両者にとって言わずもがなのメリットだ。ではお金を払って舞台に立つ踊り手は?といえば、大きなメリットが2つある。ひとつは、舞台の使用料とアーティストの出演料を自分たちで払うため、「集客の必要がない」。仕事をしながらフラメンコを習っている練習生にとって、ライブの集客は大変だ。このペーニャではその気苦労がないから気軽に参加でき、それが人気の理由となっている。

もうひとつのメリットは、「プロの伴奏で本番さながらに踊れる」こと。実は個人的にこのペーニャが気になっていたので、実際に観に行ってみた。

舞台でも客席でも真剣!上を目指す踊り手たちの熱気を実感


●1部 平田かつら/ソレア(左)、藤岡里織/タラント(右)

●1部 青木千鶴子/カーニャ(左)、岡本まゆみ/ガロティン(右)

僕が訪れた47日は、青木千鶴子さんや平田かつらさんら7名が踊り手として出演。アーティストはカンテが森薫里さん、ギターが逸見豪さん、バイオリンが三木重人さんという顔ぶれだ。

ペーニャ初体験の僕にとって、とても新鮮な光景だった。踊り手はノーメイク、オーナーの意向で衣装も簡素だ。貸し切りではないので観客も入れるが、この日は僕を含め2人だった。それでも舞台に立つ踊り手は真剣だし、客席で待機している他の踊り手も真剣に舞台の仲間を見つめている。


仲間の舞台を見つめる出演者たち。皆真剣な眼差しだ。

終演後、踊り手の1人が言うには――。

「練習だけやってライブに出ても、やりたかったことができなかったりする。このペーニャで経験を積んでからライブに出るんです」

アーティストとのやりとりや舞台上の心得など、練習ではわからない部分をここで学ぶという。だから「Peña rosa roja」では、終演後が本当の本番となる。美味しい食事でお腹を満たしてから、アーティストにアドバイスを受けるのだ。

まだ3度目というソレアを踊った平田さんは森さんから曲の構成のアドバイスを受けていたし、常盤直生さんはパルマを担当した時の心得を三木さんから教わっていた。「ダメ出しされてくる…」といって逸見さんのところに向かう踊り手もいた。もっと上手くなりたい! 上手くなる! という、前向きで力強い空気で満たされた店内の光景を見て、ごくごく自然に実感した。「次に観る時、絶対みんな上手くなっている」と。


●2部 常盤直生/ティエント(左)、青木千鶴子/ソレア(右)

●2部 山本秀子/タラント(左)、山下美希/アレグリアス(右)

実際、参加している踊り手さんに話を聞くと、皆さん上達を実感しているようだ。アーティストのアドバイスだけでなく、仲間同士で意見を言い合うこともある。このペーニャには様々なお教室の生徒さんが参加しているため、いろんな人と出会い、いろいろな振付や感性に触れられることも、大いにプラスになっていることだろう。

カマレラや厨房を担当しお店の采配を振る著名なバイラオーラ河内さおりさんも、店内で立ち回りながらペーニャを見守っているという。アーティストや踊り手仲間、河内さおりさんも含めて、店内の全ての人がそれぞれの「上手くなりたい!」という想いをバックアップしている。そしてそこには、フラメンコへの熱い想いが激しく燃え盛っている。初めて拝見した青木さんのPeña rosa rojaだが、その熱気の中にいるだけで楽しくて心地よかったし、皆さんの上達度も含めて「また来たい!」と思った。

フラメンコとお店への想いが生んだ企画が、フラメンコ界を明るく照らす

踊り手さんは上達し、お店とアーティストは収入が得られる。3者にとってまさにメリットばかりだ。実はこの企画は、青木さんが自宅スタジオで開いていた練習会が元になっているという。ライブのリハのように参加者が踊り、アーティストからアドバイスをもらう。練習会での経験とアーティストとのつながりがあったから「Peña rosa roja」の運営もスムーズだったと青木さんは語る。

立ち上げ当初も、50人の友人にLINEでこの企画を知らせたところすぐに枠が埋まったという。

「コロナで皆がフラメンコを我慢し、閉塞感が漂っていたところに風穴を開けた実感がありました」

それほど皆踊りたがっていたし、コロナでなおままならない集客もしなくていい。しかも上手くなる! 踊り手さんにとって、またフラメンコ界にとって、コロナ禍でのヒット企画と言えるだろう。

個人的な企画なので、残念ながら出演者の公募はしていない。しかし高円寺・エスペランサのマスター田代淳さんがご健在の時に青木さんが話を持っていき、そちらでも同様の企画「実践ライブ練習会」が公募ありで始まった。もしかしたらこの後、この企画がさらに他の店に飛び火していく可能性だってある。

青木さんのフラメンコとお店への想い、経験から生まれたこの企画によって、フラメンコの希望の灯はこれからも燃え続けるに違いない。

■ペーニャを観ながら美味しいディナーを楽しもう!■

2021年4月に新しいシェフを迎え、サラ・アンダルーサではより美味しくなったお料理でお客様をお迎えしています。今回紹介したペーニャでバイレ仲間たちが奮闘する姿を観ながら、自慢の料理に舌鼓を打つのも楽しそう。現在は昼間はランチ、ライブのない平日夜もレストランとして営業しているので、ぜひ足を運んでみてください!

※お店の営業日、チャージ等は、下記公式サイトにてご確認ください。
https://www.iberia-j.com/restaurante/