■20200112/彼女の新たな進化の兆しを見た!「内田好美 受賞記念ライブ」

2022年6月10日ライブレポート

初めて会った店で、再び彼女を観ることになった。

もう2年半くらい前になる。四谷三丁目のカサ・アルティスタに、複数の知り合いが出演するライブを観に行った。地下にあるお店のトイレに入ると、上階からカコカコと固いものを打つ音が聞こえてきた。踊り手さんがビルの入口付近でウォームアップのために足を打つ音が、コンクリートの壁を通して響いているのだ。

階段を登っていったら、彼女がいた。

内田好美さん。

そのライブの少し前にエミリオ・マジャが開催したオーディションを見事に通過していて、知り合いから「好美さんうまいよ!」との話は聞いていた。僕自身も、一度観てみたいと思っていた踊り手さんだった。

そんな出会いで始まってから、何度彼女を観ただろう。こういう時Facebookは便利なもので、いつ観てどんなライブだったかすぐに振り返ることができる。
「実力があり、艶があり、ハートもある踊り手さん」
「(アレグリアスの)中盤以降、なぜか彼女が心奪われる超絶美女に見えるという😍」
「軽快かつ強く、突風のようにビシビシ決まる上体と足は見惚れ聞き惚れる程でした」
観る度に何か書かずにはいられない、素敵な踊り手さんだった。

僕が観はじめたのは、ちょうど彼女が東京で踊り始めた時期で、当時は集客に協力するためによく観に行っていた。

しかし、それももう過去の話だ。2020年1月12日、四谷三丁目のカサ・アルティアスタで開催された「内田好美 受賞記念ライブ」では、彼女1人でお店を満席にしてしまったのだから。

2019年、6月に第2回全日本フラメンココンクールで入賞、8月に日本で最も大きなコンクール・新人公演で奨励賞を受賞。1年間に2つの賞を取った内田好美さんのライブが始まった。

1曲目はタンゴ。師と仰ぐベニート・ガルシアとのパレハでスタートした。さすがに息も空気もピッタリ合って、長年連れ添った相方同士のように見える。寄り添い離れ、絡んで見つめ合う。濃密な舞台が目の前に展開していった。

ベニートはこのライブで、好美さんについてこう語っている。「彼女はこうしてこうして、と教えなくても、何も言わなくても、こちらが動くだけで全部やってくれる。アートが溢れてくるんだ」

確かに、奨励賞を受賞した新人公演のシギリージャでモイが悲哀に満ちた声を絞り出した時、好美さんは回転しながら手で顔を隠し、悲しそうに、苦しそうに身体を屈めた。モイの歌に、感情と空気を見事に融合させた彼女の姿に感服したものだ。音を受け、空気を感じ、踊りを紡ぐ。相手がスペイン人であってもしっかり合わせ、だから音も踊りも深まっていく。彼女の感性の豊かさ、深さと、その才能には驚くばかりだ。

Kintaさんのギターソロを挟んで、3曲目は好美さんのグァヒーラ。この出だしがまた素晴らしかった。イントロでKintaさんが奏でた繊細な旋律、その音に寸分たがわぬ美しい空気が好美さんの中に現れていた。

白く透き通った、密度の高い真珠が放つ光のような。手を伸ばせば握りしめられる、存在のある眩しい光。そんな空気が好美さんの中にあった。

しかしそれだけでは終わらなかった。

華やかに舞っていた好美さんは途中で踊りを止めて、
「皆様、本日は内田好美の奨励賞受賞記念ライブにお越しいただき…」
なんと曲の途中でMCをはじめたのだ。

その喋りのテンポの良いこと! 内容の楽しいこと! 観客もびっくりするやら喜ぶやら、当然のようにハレオが飛び交う。「楽しくて、笑顔の絶えないライブにしたい」ライブ中に彼女が語ったそんな想いが、踊りにとどまらず、MCという形となって現れたのだ。


曲中にMCをする好美さん。お客さんも笑顔です!

笑いとハレオが交錯する中で、すっかり舞台には“好美ワールド”ができあがっていた。温かいものがあふれる空気の中で、4曲目にベニートがアレグリアスを踊る。軽快で躍動感に溢れ、かと思うとおどけた仕草を交えてグイグイ引き込んでいくその姿には、舞台巧者の貫禄があった。後ろでパルマを叩く好美さんはもちろん、カンテの小松美保さんも笑顔、また笑顔のアレグリアスだった。

1曲ずつソロを踊り、汗をかいた後の5曲目は好美さんとベニートのセビジャーナス。輪を描き、寄り添って、同じ振りを取ってまた離れる。ピッタリと息を合わせる踊る2人を、温かで濃い空気が包んでいた。

小松美保さんのカンテソロとベニートの語りを挟んで、ラストは衣装を替えた好美さんのソレア。新人公演で賞を取った時の黒い衣装に身を包み、静かに舞台に上がる。いつもは冷静な音を出すKintaさんもさすがにこの時は盛り上がっていたようで、荒ぶった熱い音をはじき出していた。

好美さんはゆっくり動く。アクセントでもゆっくりと。

その身体を、ギターの音が突き抜けてくる。

音に乗って、客席に届く。
好美さんの身体のぬくもりが。

重く、静謐なソレアはやがて激しくなる。しかし、どこかぬくもりを感じる。それは恐らく、今日この場に集まってくれた観客への想いを、好美さんが踊りに込めていたからだろう。

もう何もいらなかった。想いを放出する彼女を観ているだけで、彼女と同じ空間にいるだけで、僕の中にも自然と温かいものが溢れてきた。

このライブのラストにふさわしい、素敵なソレアだった。

多くの観客に見守られながら、好美さんはソレアを踊りきった。曲の後のMCでは、観客のリクエストに答えて名古屋弁で語る場面もあり、終始和やかだったライブは終演となった。

終演後、好美さんはこう語った。

「やりたかったことを全部やろうと思っていた」

彼女のその想いが、温かくて楽しくて、“内田好美”という踊り手を今までよりもっと好きになって、応援したくなるような。そんな素敵なライブを作り上げた。

特に今回彼女が披露した「曲中MC」は、僕をはじめフラメンコを見慣れたお客さんに強烈なインパクトを与えたはずだ。こうした斬新で大胆なアイディアによって、好美さんは今後ますます進化していきそうな予感がした。

お店からの帰り道、多くの観客が今日のライブについて、好美さんのさらなる飛躍について語ったことだろう。もちろん僕も。これからの活躍に大いに期待しています!

よしみん、出演者の皆様、お店のスタッフの皆様、素敵なライブをありがとうございました!!